クリスマスな夜の夢
2008年 12月 25日
クリスマスな夜の夢 (1)
クリスマスな夜の夢 (2)
クリスマスな夜の夢 (3)
クリスマスな夜の夢 (4)
ひさびさすぎてさらにとりとめもまとまりもない・・・
お読みいただければ感謝です
こんなですみません m(_ _)m
# by MemenCrital | 2008-12-25 10:30 | 童語り:みんなのどうわ | Trackback | Comments(2)
2008年 12月 25日
# by MemenCrital | 2008-12-25 10:30 | 童語り:みんなのどうわ | Trackback | Comments(2)
2008年 12月 25日
あるクリスマスの前夜
ひとびとが寝しずまった頃
とある洋館に、ひとつの光りがそっとおりたちました。
「今夜こそみてろよ・・・」
その光りは、誰にも聞こえないような声でそうつぶやき
窓から中にはいりこんでいきました
部屋の中には、ところせましとオモチャがあります
ブリキでできたお人形
小さなプラスチックのお人形
昔はやったオモチャのあれこれ
「よーしお前ら、今年もよろしくたのむぜ!」
そういうと、光りは小さな妖精の姿になり
手にした棒を振り上げました
そこへ
「誰だい?きみは」
妖精がたつ窓べりのすぐ下から声が響きました
「なんだ?既に魂の入った奴がいるのか、今年は」
妖精は質問に答えずそう言います
「僕は用無しのくるみ割り人形だよ」
声の主はちょっと寂しそうにそうこたえました
「俺は妖精のパックっていうんだ」
そういうとこんどこそ、妖精は手にした棒を振り上げて
部屋の中にむかって振り回しました
「ほらおきろー!てめえら、めざめろー!」
するとどうでしょう
部屋中のオモチャたちがとたんに目覚めて
あたりはガヤガヤとにぎわしくなったのです
「今年こそしっかりとやれよ!去年みたいにおじけづくなよ!」
妖精のパックはそういってみなの前に立つと
なにやら一枚の紙を懐から取り出して
そして
オモチャたちを集めてなにやら話しかけはじめたのです
「いいか、今年の作戦は東の国から仕入れてきたものだ。ぜったいにうまくいくから、お前らドジすんなよ」
クリスマス前夜の、巷では皆がにぎやかにお祭り騒ぎの夜
はてさて
いったい何がおきますでしょうか?
# by MemenCrital | 2008-12-25 10:00 | 童語り:みんなのどうわ
2008年 12月 25日
「お前とお前は燃えなさそうだからその暖炉の中な」
パックはオモチャたちに次々と命令していきます。それを見ていたクルミ割り人形はこうたずねました。
「いったい何をするの?彼らは燃えないだろうけどこげついちゃうよ」
「平気さ、どうせ最後には・・・っと。お前とお前とお前はそう、そこの洗面台の蛇口に隠れてろ」
聞いても答えてくれないと思ったのか、くるみ割り人形はそれきり黙って座り込んでしまいました。
大勢いたオモチャや人形達は、あっというまに、部屋のそこらじゅうに隠れ、ついにパックはくるみ割り人形にこう言いました。
「よし、全部準備ができたな。次はっと、お前、名前なんていうんだっけ?」
「さっき言ったろう。用無しのくるみ割り人形だって」
くるみ割り人形は少し機嫌が悪そうです。
「名前を聞いてるんだよ、それ名前じゃないだろう」
「そうなのかい?」
「そうだよ。それは俺様が僕は妖精だよって相手を小馬鹿にするときに言うのと一緒だ」
パックはそういって自慢げに鼻を指差します。
「小馬鹿って?」
「そんなのいいから、名前は?なんていうのさ」
「覚えてない」
くるみ割り人形は少しだけ寂しそうにそう言いました。
「ナナシのなんとかか。しょうがねえ、ボトムでいいか?いいな。よし、ボトム、一緒に来い」
強引にそう名づけられて、くるみ割り人形のボトムはパックと共に玄関の外へとやってきました。
「この上にのぼって待つぞ。のぼれるか、ボトム?」
「うん、頑張ってみる」
ふたりは玄関の柱をせっせとのぼっていきます。
「パック、羽があるんだから先にのぼってていいよ」
「よけいなこと考えないで。ほら、さっさとのぼる」
そうしてふたりは、ついに玄関の上にある小さな屋根へとのぼりつきました。
「お前、意外とやるじゃん」
パックはそういってボトムをゴツンとこづきました。
「ありがとう。一緒にのぼってくれたからだよ」
「馬鹿いってんじゃねえよ。羽で飛ぶ方が疲れるからのぼったんだよ」
パックはそう毒づきます。ボトムはその様子を見て笑顔になりました。
「ここで何をすればいいの?」
「それはもう少し後になったら教えてやる」
「まさか、ここから飛び降りたりしないよね?」
「まさか」
いいながらパックは鼻をポリポリ掻きました。
「ボトムってなんで?」
「なんでって、ちょっと前にからかった人間の名前だよ」
「そうなの?」
「いちいち細かいこと聞かないで、知りたかったら勉強しろ」
「え?」
「夏の夜の夢って本がどこかにあるから、それを読めって言ってんだ」
「なんだ、教えてくれないんだ」
ボトムはそう言うとうなだれてしまいました。
「ちぇ、しょうがねえなあ。わかったよ、あとで教えてやる」
パックのその一言に、ボトムはウキウキとしてきました。
しだいに夜が深くなっていきます。
もうしばらくすると雪が降りそうな空です。
はてさて、パックはいったい何を計画しているのでしょうか?
そして、どうなりますことやら。謎は深まるばかりです。
# by MemenCrital | 2008-12-25 08:00 | 童語り:みんなのどうわ
2008年 12月 25日
ひととおりの準備がすんだのか、さきほどまでのにぎやかさがうすれ、洋館は静まりかえっています。そこここかしこでひそひそと、なにやらみんなで話しこんで時をまっているようです。
「ねえねえ、いきおいよく飛び出せばいいのかな?僕」
「いっせえのせ、でいこうね、みんな」
「俺はどのタイミングで出ていけばいいんだ?」
「しらないよそんなの。パックに聞かなかったのかい?」
ぼそぼそとそんな声が、ひそひそと室内にまぎれ、ドキドキわくわくするような、そんな気持ちであふれています。
そんな中、外に出て、玄関の上にある小さな屋根の上にいる、ふたりの様子はというと・・・。
「へー、ボトムそんな長生きなのか。俺といい勝負かもな」
「パックってどれくらい前に生まれたの?」
「さあね」
「さあねって?」
「わかんないって言ってるの。そんなことしらないもの」
「じゃあ、いい勝負かどうかなんてわからないじゃないか」
「それよかさ、ボトムはなんで役立たずとかって自分のこというんだ?」
「・・・用無し」
「こまけえな。んじゃ、なんで用無しなんだ?」
「もうどこへいったってクルミを割るのに僕を使おうなんて人はいないから」
「へー、そうなんだ」
「うん」
「くるみって割るのたいへんなのか?」
「うん、すごく硬いから人の手じゃなかなか割れないよ」
「石でたたいたら割れる?」
「どうかなあ?」
「石で割れるなら別にお前いなくてもいいもんな」
そういわれて傷ついたボトムは、うっすらと目に涙をためて黙り込んでしまいました。
「あ、そういう意味じゃなくってさ、えと、ほら、その・・・」
「いいんだ」
「いやだからさ、ほらつまり、えっと」
「どうせもう僕、クルミなんか割りたくなかったから、いいんだ」
「そうなの?」
「割れたって喜んでもらえるのは最初のうちだけだし、しばらくしたら割れて当たり前になるし、僕の部品とか欠けてクルミが割れなかったりするとすぐ用無しっていわれて捨てられちゃうし」
「まあ、クルミが割れなきゃそうだろうなあ」
またまた、ボトムはひとみから今にも涙がこぼれおちそうなほどに涙をためて、気持ちをこらえています。
「でもほら、クルミを割りたくて人間はお前をつくったんだろうから」
「そんなの・・・つくった人に聞かなきゃわかんないやい」
「あ、そうか。ひょっとしたらくるみ割るってのがオマケかもしれないもんな?」
「それはわからないけど・・・」
ふいに、パックはあることを思いついて言いました。
「ボトムは、クルミ以外のものは割れないのか?」
「そんなことしたら壊れちゃってクルミが割れなくなるじゃないか!?」
ボトムは驚いたようにききかえしました。そんなことをしたらとんでもない、ますます用無しになってついには捨てられてしまうじゃないか。ひょっとしたら薪がわりに暖炉にくべられてしまう。そう考えるととても怖くなりました。
「やったことねえんだな。じゃあやってみればいいのに」
「だめだよ、ぜったいにだめ!そんなことしたら燃やされちゃうよ!!」
「でもボトムさ、さっきもうクルミなんか割りたくないっていった」
「そうだけど・・・」
「クルミを割らないでいいなら、他になにかためしたって別にいいだろう?」
「パックは自分のことじゃないからそういえるんだよ。そんなことしたら、ううん、そんなこと試すって考えただけでもおっかなくって・・・」
「おっかなくって?」
「それならまだ、だまって飾られている方がいいよ。だって怖いもん」
「まあ、いいや。俺の知ったこっちゃないことだし」
ドキドキしながらボトムは何度も、例えば人間がクルミ以外の何かを割ろうとして自分を使うことを想像しました。ブルーベリー、イチゴ、トマト、レタス、白菜、ジャガイモ、しいたけ、なにかのネジ、びーだま、ゴルフボール
「どれもこれも柔らかすぎるか、かたすぎてだめだよ」
「何が?」
「パックがいったんでしょう。クルミ以外のなにかを割れないかって」
「そうだっけ?」
「なんだよ!無責任だなあ」
「し!きたぞ!!」
パックの声に驚いて身を伏せると、なにやら玄関に、大きな人影が近づいてきたけはいがします。そのとたんに、さっと、洋館はしずまりかえりました。まるでなにごともなかったかのように。
「しっかりたのむぞ、ボトム」
え?でもまだ何をするのかきいてないよ、とボトムはパックに聞こうとしましたが、静かにと唇に指をたてるパックの動きになにもいえなくなり、そうしてそのままじっとするしかありませんでした。
ズシン!
足音が近づいてきます
ドシン!
玄関に立ちました
がちゃり
玄関のドアノブが回されたようです
ぎぎー
ドアが開いて、けはいが中にはいっていったのがわかりました。
「こっち、しずかにな」
静かにそう言ってパックは、玄関の屋根からひかりをとりいれるためにつくられた窓へと、さっと移動していきます。ボトムも慎重に音を立てないように、そちらへとむかいました。
「いよいよだぞ」
へへっと小さく笑って、パックは洋館の中をのぞきこんでいます。
ボトムもようやく窓へとたどりついて、パックのとなりから中をのぞきこんでいます。
どこからか、鈴の音がシャンシャンと聞こえてくる聖なる夜。
そんな夜にふさわしくない顔をしてニタリと笑う妖精と
まるでなにが起こるのかわからないでおどおどしている人形
この先は
また後ほど
# by MemenCrital | 2008-12-25 06:00 | 童語り:みんなのどうわ
2008年 12月 25日
「ボトム、しっかりみろよ。あれが俺たちの敵のおやだまだ!」
キッと唇をかみ締め、押し殺したようにパックはそう告げた。
その瞳にはここへくるまでに落とした、仲間達を思う悲しみの光りも混じっている。
お前ら、今夜こそきっと仇はとる。
そう告げているかのようである。
「パック、なにをひとりでぶつぶつと言っているのさ?」
「え?いやなに、場の雰囲気をもりあげようと思ってさ」
「へんなの」
さて、部屋の中ではいよいよ人影が暖炉に近づこうとしていました。手には新聞紙のきれはしとライターをもっています。
しゅぽっとライターに火がつきました。
その火を新聞紙にもえうつらせて、それをそのまま暖炉の中へ・・・。
「あちー!!!!」
なにものかがそう叫んで暖炉の中からとびだしました。
「あ!ばか!!」
みるとそれは頭の一部が黒くこげたブリキの人形です。
「なにをしている、きさま?」
人影はこともなげにそうつぶやくと、暖炉に火がともり明るくなる前に台所へといどうしていきました。
「あのブリキ野郎め、ぶちこわしじゃあないか」
パックは悔しそうにそう言いました。けれどすぐに気をとりなおして、こう言いました。
「でもみてろ!次は手ごわいぞ、くくくく」
「パック、ものすごく悪者の顔してる」
「クルミ割る物、なんちゃってな」
そのとたん、台所の方から大きな音が響きました。がっしゃーん!
「やったか!?」
「え?なにが?」
すると、台所から何事もなかったかのように人影が出てきます。
汗をかいたのかなにやら大きな布で顔をふいているようです。
「あれれ?台所ぐみもだめだったのか」
パックには、きづきようもありませんでしたが、実はパックたちがいるすぐ横に、台所へと通じる換気扇の空気穴がとおっていたのです。
さっきの音は、ついさきほどの会話を聞いていたフランス人形が、ふいをついて発せられた駄洒落に思わずふきだしてしまい、隠れていた戸棚をころげおちてしまった音だったのです。
暖炉のときとおなじで、そのほかに隠れてドキドキしていたみんなは、なにが起こったのかと気をそがれてしまい、けっきょく飛び出すことができませんでした。
「なかなかやるな」
パックはそう言いながら、次の一手に賭けようと決意しました。
次こそ、次の一手さえ決まれば、あいつらの敵討ちができる。
みてろお前ら!星になってみてろ!お前らをあんなにむごい仕打ちで・・・
「ねえパック!だからひとりごとなの?それ」
「いや、なんでもねえ。つぎだつぎ!」
部屋の中では人影がなにやら着替えているようです。
そうして着替えおわったのか、彼は玄関へと向かって歩き始めました。
「いよいよだ。俺たちも準備するぞ!ボトム!」
「え?」
「いいから、こっちこい!」
パックにひかれて、ボトムは屋根のはしへとつれていかれました。
「いいかボトム、俺がいくぞって言ったら何も言わずここから飛ぶんだ」
「!?」
ボトムは口ごたえできないように口をふさがれています。
「声を出すな。あいつに気づかれちまう。いいか、あいつはとんでもなく悪い奴なんだ。もう何年も前からお前達オモチャや人形を袋につめて、奴隷のようにどこかへ売り飛ばして暮らしているんだ」
「!!」
「そうだ、わかるだろう。お前もほっとくとあいつに売り飛ばされて、どこかよくわからないところで、イチゴだとかよくわからないネジだとかプラスチックのかたまりだとかを潰さなきゃならなくなるんだぞ」
「!!!」
「だろう、だから今ここで退治しとかなきゃいけないんだ。いいな、わかったら言うとおりにしろよ」
ボトムは強くうなづきました。
そうこうするうちに、玄関のところでガチャリと音がしました。ついで「お!?」っとうめくような声がして、ドシンと何かが倒れるような大きな音がひびきわたりました。
「今だ!いくぞ!!」
そのときボトムは一心に願って飛びました。クルミ以外のものを割るなんて嫌だと。
どんっと
何かにぶつかる感じがしました。
やわらかくあたたかいものです。
ぎゅっと
つかまれるのをさっして
ボトムは必死になってそのつかんでこようとする手を、はさんで割ろうとします。
ぱっと
なにかが頭をおさえました。
ああ、だめだったか。これで僕はクルミ以外のものを割る人形になってしまうのだな、とボトムは嘆きました。
「ああ、これで僕はクルミ以外のものを割る人形になってしまうんだな・・・」
「なにを言っておるんじゃ?クルミ割り人形よ」
「え?」
「今年はな、アメリカの大きなクルミ農家で子供が生まれたらしく、その家の主がその子のためにお前をほしがっていたぞ」
「あなたは・・・?」
つかまれた手をそっとほどかれ、いつの間にか暖炉の前に立つ人影は、あかりの中でよく目をこらしてみると、真っ赤な服に、白いそでぐち。真っ白いのはそれだけではなく、顔中をおおうようにふさふさにはえた白いひげ。
「サンタクロースさん?」
「そうじゃ。この日ばかりはサンタクロースじゃ」
にっこりと笑った顔はとても暖かくて、さきほどパックに言われたことが全てすっ飛んでいってしまうほどです。
「そしてまたの名を・・・」
「オーベロン!はなせー!!馬鹿妖精王め!はなせってばよ!」
パックがもう一方の手に強く握られてあがいています。
「うおっほん。まったく、パックには毎年こまったもんだ。私はこれをしないと妻であるタイターニアにとんだ目にあわされるのだぞ?それをわかってやっているのか、お前は」
「知るかそんなの!そんなことよりこないだとってきた露草の蜜を分けてくれるって言ったじゃないか。その約束がまだ はたされてないぞー!!」
「やれやれ、そんなことか。毎年毎年、たわいもないことで根にもってここ一番でつっかかってきて・・・はあ。妖精王なぞやめたくなってきたわ」
「やめちまえー!」
「うるさい、パック!お前は罰として向こう一年間タイターニアの元へ貸し出すことにする」
「えー?!」
「そうすりゃ少しは、私の苦労も身に沁みることだろうって」
「いいもん、そうしたらタイターニア様に露草の蜜をたくさんとってきて、その分け前を山ほどもらえるからな」
「ば、ばかもん!私がケチみたいな言いかたをするでない」
「本当のことじゃんかよー」
その間ずっと、クルミ割り人形はポカンとして白いひげが上下するのをながめていました。なにが起こったのかまるきりわかりません。
「おうおう、すまんかった、クルミ割り人形よ。まったくパックのいたずらにも困ったもんだ。さっきちらっと言ったが、それで問題はないか?」
「僕がまたクルミを割る役にたてるの?」
「おお、そうじゃ。アメリカで一番のクルミ農園でな、そこの農場主だから、子供の目の前でたんとクルミを割って見せてくれるじゃろう」
「喜んでもらえるの?」
「まだ生まれたてのこどもだからな。とうぶんはキャッキャとお前を喜んでくれるじゃろう」
「その子が大きくなったら?」
「大事に大事にしてくれるじゃろうて。生まれたときからある人形としてな」
「もう用無しじゃあなくなるってこと?」
「用無し?とんでもない。クルミが割れようが割れまいが、お前は用無しなんかじゃないよ」
優しい声でそういわれて、ボトムは気持ちが膨らんでいくのを感じました。
「では、了解ということじゃな」
あふれる気持ちがわっと、ひとみからながれおちて、それがとまらなくなるのを喜んでいます。
もう用無しなんかじゃないんだ、と思う反面、心のどこか片隅で少しだけ、さっきまでパックといたことを思い出していました。
用無しなんて僕が勝手にそう思い込んでいただけかもしれない。
パックは僕を、なんでもないただの人形として遊んでくれてたのかもしれない。
だって、一緒に屋根までのぼったもんな・・・。
クルミ割り人形のボトムはこうして、アメリカにあるクルミ農場へと届けられ
そこで末永く幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
# by MemenCrital | 2008-12-25 04:00 | 童語り:みんなのどうわ
2008年 09月 17日
# by MemenCrital | 2008-09-17 22:28 | 夢語り:きみと逢うマチ
2008年 07月 27日
# by MemenCrital | 2008-07-27 21:02 | 小語り:短編・掌編 | Trackback | Comments(0)
2008年 03月 26日

# by MemenCrital | 2008-03-26 18:28 | 短歌:ごしちごしちしち
2008年 03月 26日
# by MemenCrital | 2008-03-26 12:59 | コメント・トラバ | Trackback | Comments(0)
2008年 03月 01日
いつのころにか、シンという名の意思が存在した。
誰に生み出されたのかも、何のために生まれたのかも
己自身でわからぬままに。
シンはひとつの願いを抱き生まれていた。
それは言葉にするには漠然としたもので
あるがままをあるがままに
そう願う誰かの思いに応え生まれてきたのかと己を探ったりもした。
古事記の時代に、そのように唱え一国を治めた者が人としていた。
シンはその者が己の生みだし手かと探りをいれてみたが、答えを得られぬままにほどなく
東洋のその小さな一国は大陸より渡来した民族の手で葬られ
そうしてシンは己の願いを果たせぬ世となってゆく様を見つつも
まだ力なくただ黙って大地に起こる様を眺めるしかなかった。
何千回かの昼が過ぎ、夜が明け、シンは一個の人に出会う。
その者はシンの存在に気づき、声をかけ、そうして施しを与えてゆく。
それを受けシンは、やがて人としての様相を備えていったのであった。
# by MemenCrital | 2008-03-01 23:00 | 夢語り:運命のロンド
2008年 03月 01日
「やめろ!やめろー!」
畑の中に散乱した武装兵たちの粗相に、ムジナは激しく抵抗した。他の村人達は遠巻きに眺めているだけで一言も発しようとしないでいる。そうこうしているうちに、武装した兵たちは作物を足で更にと、粉砕しあたりにまき散らしていった。
「それがどういうことなのかわかっているのか?!お前らが足蹴にしている作物は、いずれお前達の腹に収まるかもしれないものなんだぞ!」
「馬鹿いうな。なにも畑がここだけとは限らないだろうが。」
「わはは。そんな本当のこと言っちゃ、この小僧が余計にカッカするぞ。」
「お前も馬鹿か?それが面白くてやってるんだろうが。」
元はといえばムジナの姉を目当てにこの村へとやってきた流れ者の一味である。それを一旦は追い返したものの、どこをどう取り入ったのか地方の豪族であるアダタラ氏に取り入り、その立場を利用しての嫌がらせに来たこともムジナにはわかっていた。しかし生来の真っ向さが災いしたというのだろう。
ついに切れたムジナは、手にした農耕器具をふりかざし、一団の長らしき長身で鼻のでかい男へと挑みかかった。
カッツンと、音が鳴り響いた。
バシャっと、何か液体のこぼれる音が続く。
遠巻きに眺めていた村人は我先にと己が家に走り出していた。
どこか遠くで、ピーと鳴く鳶の声が聞こえたようだと、ムジナは思った。
崩れ落ちるさなかにふと見上げた空の青さと、その後に目に飛び込んでくる深い緑の山影。
ムジナはそこに何か人影を見たような気がした。
「白い・・・なんだあれは?」
「ひーひひ!やっちまったなぁお前。どうするよこの始末は。」
兵のひとりが、赤く濡れそぼった刀剣を手にしている背の高い男に向って言った。
「埋めちまえ。そうすりゃこの畑も少しはマシになって、返って感謝されるこったろうよ。」
男たちの下卑た笑い声が響いた。
ムジナは、消えゆく意識の中で男たちの声をどこか遠くに聞きながら、またそれとは別の声へと耳を傾けていた。
なぜ、こんな奴らがのさばるんだ。なぜ、力ずくでなんでも言いなりにしようとするんだ。そんなの絶対に間違っているだろう。
なぜ挑発してまで、こちらから掛かってゆくように仕向ける。力ずくでくるなら最初から力を奮えばいいだろう。小賢しい連中め。村のみんなが掛かってきたら前と同じになるとわかって、せこい連中だ。
『そんな連中になぜ真正面から向うのだ?おまえの方が考えが足りぬのだろう』
知るかそんなこと!俺はただ頭にきたから打ちかかっただけだ。
『それでは変わらんな、連中と』
なんだと!
『どれ、任せてみろ』
次の瞬間、笑いながらムジナを埋めようとしていた男の手が、体から離れ空を飛んでいた。
青い空に白の雲がすうっと線を引き、そこになだらかな曲線を描いて、赤の放物線が描かれていった。
「なんだ?!」
長身の男がそうと口にするまでの間に、彼の仲間たちはひとり、またひとりと、体のあちらこちらを無造作に空へと撒き散らし、そうして畑へとまんべんなく広がっていった。
「なんだ?なんなんだおめえは?!」
男の前に、先ほど男がつけた切り傷から血を流し、左右の手を手首まで真っ赤に染めた、ムジナが立っていた。その目を見たときに男は戦慄を覚えた。
・・・この野郎、なんか憑きやがった・・・
ムジナの目はつい先ほどまでの男と寸分変わらぬ、冷酷で目の前に対峙したモノを物としか思わない非情さで満ちていた。そしてその表情は、うっすらと冷淡に微笑んでいるようにも見えた。
・・・ついてねえ日だ。しかもこんなど田舎でか・・・
覚悟して次の瞬間を待つ男の鼻先に、ムジナの手が伸びる。ふたりの目と目が合わさった瞬間に、男はふと目の前にいるムジナの姉を思い出していた。
・・・遠くから眺めただけで追い出されたが、ありゃ、いい女だったな・・・
サクッと、何かが刺さるような感じがした。
『この野郎、こんな時に俺の姉さんを思い浮かべやがって。ゆるせねえ!』
「やめろ!ムジナ。」
男の左肩に指先が、第二関節まで刺さっていた。
「こいつはこの先も使える。殺すな。」
『うるせえ!俺の姉さんを汚す奴は誰であれ容赦はしねえ!!』
「やはり貴様は・・・馬鹿だ。」
そう最後に言葉を残して、ムジナの中からその何かは抜けていた。
手は男の左肩に入り込み、心の臓へとたどり着こうとしていた。
『わざわざ手を貸してやったというのに、見込み違いか』
そうムジナに聞こえたかと思うやいなや、ムジナは再び力なく後方へと倒れ、男の肩口から自然と手が抜けた。
あたりには人気もなく、家々から伺いに出向く顔ひとつない。
畑には散乱した人の一部が散らばり、その中央にまともな姿の、動かない二つの人影が細々と息をしていた。
『それでも無いよりはましと考えるか』
『悩みどころではあるな』
ムジナと、そして左肩からの出血で気が遠くなる男にだけ、その声が響いていた。
『ここらで手をうつか・・・』
またどこかで、ピーと鳶が鳴いた。
それ以外は音も無い、静かな山村の、ある晴れた日の昼下がりであった。
# by MemenCrital | 2008-03-01 22:00 | 夢語り:運命のロンド
2008年 03月 01日
その日は朝から日差しが暖かく、そして風に香るように野の花の匂いがさらりと立ち込めていた。
生成りの生地に身を包んだシンは、一旦洞窟から外へ出ると大きく伸びをし、そして朝焼けの空を腕を組みながらじっと眺めていた。
洞窟の奥ではムジナとサンゴウが大いびきをかいて寝入っている。
「もう季節が三度も巡ったのか。体を持つというのは時間の流れがゆったりとして、いいもんだな。」
ぼつり、誰にともなくシンが呟いた。その表情はここ数日のできごとに鬼の形相を成してきたそぶりなど微塵も感じさせずに、ただただ穏やかに見えた。
シンの足元にいつの間に来たのか、一匹の子犬が擦り寄っていた。茶色の短い毛並みには、所々血痕がこびりついている。右の耳は誰にやられたのか、噛み千切られた跡が見えた。それでも足は四本ともあり、足に擦り付ける頭には力強ささえ感じられる。
「なんだおまえ、どっから来た?山犬の子か?どれ・・・」
シンは言いながら子犬の頭に手を寄せると、そっとその頭を撫ではじめた。ムジナが起きてこの様子を見たならば驚いてまたわけのわからぬ囃したてをしたことだろう。
子犬は気持ちよさそうに頭を撫でられていた。
橙色の朝焼けが次第にその色を薄れさせてゆき、あたりはだんだんと秋晴れの景色を明るく映りだしてゆく。
眼下に広がる平野には、所々に水田の様相を成しつつあり、黄金色の穂波が色めいている。
青い空には鰯雲が、なだらかな形状で皆頭を揃えて、西の空へと泳ぎ去ろうとしているようにも見えた。
「さて、いよいよ始まるか。盛大なみものだな。」
子犬に手をあずけながら、シンはそう呟いた。
この地に起きた集団の最初の難関が、これからはじめられようとしている。
「バカ二匹め、はぐれるなよ。」
普段は代わりなどいくらでもいるとそう言いつづけてきたムジナとサンゴウに、つい本音を漏らしてしまうシンであった。
子犬は必死にその手に噛み付いている。
振りほどこうともせずに飽きるのを待つ間、シンの胸中には一抹の不安が陰となってよぎった。
「いかんな、わずかばかりでも囚われれば気後れする。そうであれば不安すら形を成す。」
少しばかりひとり言が多いと思ったのか、シンはそう言うと、まだじゃれつく子犬の鼻先をパチンと軽く小突き、そしてまた大きく伸びを繰り返した。
くうんと鳴く子犬はそのままその場にしゃがみこむと、自らの毛づくろいをのんびりとはじめ、そしてあたりはただただ静かな、秋の朝へと変貌してゆくのであった。
# by MemenCrital | 2008-03-01 21:00 | 夢語り:運命のロンド
2008年 03月 01日
ムジナの弔いを終え、サンゴウにあとの世話を任せると告げて立ち去ったシンは、ものごとをいつもどおりに捕らえることができぬ様子で、ふらふらと山へ分け入っていった。
藪の中、道なき道を歩いてゆく。
指先は木々に阻まれ、血が幾条にも流れ出していた。
腕や足からも、顔からも。
鳶の鳴き声が聞こえた後から、野鳥の鳴き声がピタッと止んだ気がした。
どこからか獣の気配が漂ってくる。
ガサガサといくつも、音が並んで追いかけてくるような気配がする。
空気は冷やかで空々しくあり、陽光は無駄に刺しつけるように強く、景色はどこか遠くの風景に見え、踏み込む地面は時に大きく裏切り行く手を阻み、背には追われる感触が纏わりつき・・・
そうしてシンは、山の中腹へとたどり着いた。
大きな湖だった。
湖の対岸にアサマ型の大きな山が見える。山頂部を白い雪で包み、なだらかで大きな山裾を広げていた。
「なぜ奴はあそこで死ぬ必要があったというのだ」
怒りに任せてシンはそう呟いた。
「さだめだと言うのならばその釈明をしろ。なぜ奴を連れてゆく。奴にはまだまだ経験が必要だった。まだまだ俺の元で学ぶ必要があった。なのになぜ、貴様等はいつも気まぐれで勝手なのだ」
湖畔に話しかけているのか、あるいはその向こうの山へと呟いているのか。
「この地に無駄なものなど何もないのだ。俺には奴も必要なものであったのだ。それをなぜ、あんな些細なできごとであの馬鹿は二度と俺の役にはたたぬではないか。これからもまだまだこき使おうと考えてあれもこれもと計画をしてあったのに、なぜこんなことで頓挫させられねばならぬ」
「奴の姉になんと説明すればいいのだ」
「釈明をしろ、今すぐに、ここでだ」
途端にあたりの景色が一変し、夜が訪れた。陽光は姿を消して星明りが瞬いている。足元にあった地面は不確かな空間へとすりかわり、その下方に先ほどまでの湖が全貌を現していた。目の前には大きな山があり、その向こうには海が見えた。
「サンゴウのように俺は安易に納得などしない。貴様らが勝手に連れ去っただけのことなのだから、今すぐに返せ。ムジナはまだ連れてはいかせぬ。そのために一旦あの場所へと器を隠した。さあ、これだけの手間をかけたのだからとっとと言うとおりにしてもらおうか」
景色の変化にも気づかぬほどに、シンは己の思いをあからさま広げていった。まるでそうすることで本当にムジナが生き返ると、そう思っているかのように。
生き物たちの寝息が、あたりに静かに満ちる頃、シンはまだそこに立ち返ってこない返事を待ちつづけていた。もう何時間が過ぎたのだろうか。あるいは何日も過ぎているのだろうか。そのことを問いかける無粋な輩は残念ながらここにはいない。いるのはただ虚を睨み立つシンと、穏やかに寝息をたてる万物のみであった。
「応えを」
シンは時折思い出したようにそう呟き、そしてまた黙りこむ。
誰からも応えはない。
「ムジナは、真直ぐにものを言う素直な奴だった。相手が誰であれ怖気づくこともなく、思ったままをそのまま言う。おかげで何度となくいらぬ問題を起こしはしたが、おかげでいくつかの難問があっさりと片付いたこともある」
「いる時はたいして重要だとは思っていなかった。どこにでもああいった直情的なものはいるのだろうし、またこれといって秀でた能力があるわけではなかったので、それほど気にもかけずにいた。むしろ奴は俺を唯一無二と決め付け、何事につけても己で決めるということをしなくなっていったのだから、それが無性に癇に障った。なぜ己の考えをもっと煮詰めぬうちに俺に任そうとするのだ。そこまでの度量はない。だがそうと言えぬ」
「サンゴウとつるみ、女を追いかけては帰ってきて泣く。相手の女が嫌だといえばその言葉を真に受けて、また泣く。力づくでものにしてこいとサンゴウから言われても、姉に教わったことだから自分は絶対にそんなことはしないと真顔で言う。馬鹿な小僧なんだよ、奴は。だからこそまだまだ生きて、現実を見据える経験を必要としているのだ。まだまだ次へと進むべきではない」
「とはいえもう一度最初からやり直す必要があるほどの馬鹿ではない。はじめに出会った時から変わらないところといえば、あの姉思いの思い込みぐらいだ。それ以外はなかなかよく成長してきたと思う。弓の腕も上達したのだし、行動も無謀なものはだんだんと失せていった。もう一度最初からはじめるほどには愚かではないのだ」
「応えろ!」
すうっと飲み込まれるようにシンの言葉が夜空へと溶けてゆく。あたりの穏やかさが返ってシンの感情を逆撫でしていった。
「貴様らのしたことなのになぜ応えぬ!それとも預かり知らぬことだとでも言うのか?!」
爆発した怒りも、先ほどの言葉とともにあたりの穏やかさへと吸い込まれ、四散していった。
また、時が流れた。
しかし夜は一向に明ける気配がない。
「ムジナ・・・」
シンの呟きにふと、あたりの空気がそよいだような気がした。
「お前はどうだ、もう戻るのは嫌なのか?」
穏やかであった気配が、少しざわめきだしている。
「考えてみれば俺も勝手なことを言っている。お前の意向はどうなのだ?それともまた俺任せなのか?」
満天の星空から、星の瞬きが揺れたかと思うと、その光は集約されてひとりの人影を形作る。シンの目の前に、ムジナの姿が現れた。
「お前がもう嫌だというのなら、しょうがない。納得してやる」
幻想かといぶかり、シンはムジナの影に目線を差す。まやかしならば消え去れと言わんばかりに、強く。
ムジナは視線を足元へと落とし、何事かを考えているようだった。その変わりない優柔不断さにまた、シンは冷やかな声をかけ己の憂さを晴らそうとした。
「考えたところで答えはでぬ。どう感じているのかを己に問え。お前はもう一度元に戻って、更にこの先を行こうと願うのか?それとももうこれで良いと感じているのか?」
ムジナの影がその言葉に反応して、顔をあげた。
「行くか?やめるか?二度とは聞かんぞ」
行く!
そう答えが聞こえた。あたりの静寂に混じりながらも強く。
遠く空に朝日が昇り始めていた。
「よし」
シンはそう答え、ようやっと全身に入りすぎていた力をほどいた。肩や腕が痙攣するほどに込められていた緊張が、解けてゆく。
やがて山から降りサンゴウの元へと帰ったシンの傍らには、一匹の山犬が彼を守るようについてきていた。サンゴウはその様子を見て、驚きもせずたずねる。
「そいつはこの馬鹿の代わりですか?」
「いいや、こいつはムジナだ」
「なるほど。言われてみれば良く似た顔つきだ」
よくできたことにそう言われてはじめて山犬が吠えた。
「この野郎、まだ昔のことを根にもってやがる。やっぱこいつは間違いなく馬鹿のムジナですね」
「これで貴様も取って返してムジナの姉とねんごろになろうなどと思うまい」
「なるほど、それは考えてもみなかった。言われてみれば確かにその手もありましたね。けれどこいつがいては、なるほど、確かにそんなことをしようものなら前よりも勝手が悪い」
「なんだ貴様、犬が怖いのか?」
「いやそうでなくて。これまで以上に言葉が通じないのかと思うと、今から少し気が重いだけです。まあ、それほど変わりはないか」
馬鹿笑いするサンゴウに飛び掛る山犬のムジナ。その様子を見て失った寂しさをひととき紛らわせ、シンは微笑んだ。積んだ土に向ってその微笑を投げ、そして声に出さずに一言を告げる。
「まただな、ムジナ。どこかで会おう」
見上げた空はにはもう春の色合いが強く出ていた。霞のかかったような青さの下で、広い平野が南からの風を心待ちにしているようにも見える。遠く群生する木々の枝葉には、ポツリポツリと白っぽい色合いがまぎれて見える。
また、どこか遠くで鳶が鳴いた。
ぴーと長く。
シンにはその音が追悼にも思えたのだが、気を取り直し言いきかせるように言葉に出す。
「ムジナ!サンゴウ!ゆくぞ」
声をかけられたふたりはあっさりと喧嘩を終いにして、シンの後をついて歩き出すのだった。
# by MemenCrital | 2008-03-01 20:00 | 夢語り:運命のロンド
2008年 03月 01日
もはや他に手だては無いと、シンは覚悟した。
「サンゴウ、そいつから離れろ」
そいつと呼びかけるシンの顔を虚ろに眺めながら、サンゴウはしかし乾いた舌先で力なく言った。
「いやですよ。こいつはそんな名前じゃないんですから」
骨と皮だけになった手が力なくだが、しっかりと山犬の首をなでつける。山犬もまた力なくサンゴウの隣にうずくまっている。
「そいつはただの犬っころだ!ムジナなんかじゃねえ!」
「馬鹿言っちゃいけねえ。シンさんあんた腹が減って気が立ってるんだ。こいつはあのムジナとは違うかもしれないけど、間違いなくムジナですよ。あんたがそう名付けて連れてきたんじゃねえですか」
洞窟の行き止まりはこれでもかというくらいに乾いていて、入り口の方から日差しの名残だろう熱波と光がうっすら届いている。その薄暗がりの中で、もう何日食べるものを口にしていないのだろうか、ガリガリに痩せて目と鼻だけが際立つサンゴウと、毛皮ごしにも骨と皮だけとなっているのが見えるムジナが息も絶え絶えに暑さをしのいでいた。
洞窟の入り口近くに立っていた人影が、暑さも気にならぬといった風情で歩いてくる。それでもしかし衣の下に見える肌には肋骨が浮き上がって見えた。
「サンゴウ、変な情に流されるな。食わなきゃ死ぬぞ貴様は!」
乾いた唇にはがれた皮膚を浮かべて、シンが言う。
「そんなこと言ったってここら辺は飢饉なんだ。どうしようも無いこと言ってもはじまらない」
「だからそいつから手を離せと言っているんだ!」
「そればっかりは勘弁です」
怒りの形相でシンはサンゴウを睨みつけるのだが、逆光になってサンゴウからはその表情がうかがえない。いやそれ以前にもはや光すら捉えられなくなっているのではないかと、シンはサンゴウの瞳に浮かぶ開きかけた瞳孔に目をとめ、更にきつい声を張り上げた。
「いい加減にしろ!そこまで言うのならもう一々貴様に断りはせん!」
言い終えるかいなや、シンはサンゴウへと近寄りムジナに手を伸ばす。その手をバシッと振り払うサンゴウの瞳にはかつて見た冷酷さが宿っていた。
「よしてください。いくらあんたでもこればっかりは力ずくでも止めますよ」
その言葉の鬼気を感じて、シンも鬼の形相となってゆく。
「言ってもわからんのだから仕方あるまい。貴様に今死なれては困るのだ」
「俺がですか?あんたは自分が助かりたいからこいつを食おうって言ってるんじゃないんですかい」
「馬鹿なことを。それならばとうの昔に貴様らなど見捨ててこの地を離れているわ。言いがかりもはなはだしい」
鬼気迫る睨み合いのままふたりとも動こうとしない。
「あんた本当に人間じゃないのか?前のムジナが生きていた時妙なことを言っていたが、あんたがあの時奴に憑いたモンなのか?」
「そんなことは今はどうでもいい!とにかくそいつをこちらに引き渡せ」
シンの手がまた山犬に伸びる。その手をまた力強くバシッとサンゴウが振り払う。
「なぜそんなにまでしてこの犬を!」
シンがサンゴウの襟を両手で掴むと、サンゴウの瞳にわずかばかり光が宿った。
「あんたが何を思ってそうしようとしているのかまではわかりませんが、このムジナまで見殺しにしたらたぶんあんたは立ち直れないでしょうが。それにどうせこいつを食ったところで、俺ぁもうそんなには長く生きられないですから」
「何を勝手に決めつける!生きられないとはなんだ!誰が立ち直れないだと!」
襟を掴む手に更に力をこめて、シンは叫ぶように続けた。
「手前勝手に決め付けるのはかまわんが、せめて最後まで抗え!出ていない結果を見ずに判断するな!食えばまた元気になるだろう、そう思って食わなければ食われるほうも浮かばれぬ!」
「そういうところが、良いところなんですけどもねえ。そんなのだから化け物かもしれないと思いつつここまでついて来たんですや。前のムジナもきっとそうでしょうよ。だからあんなことになっても、きっとあんたを恨んでなんかいませんて」
「今はそういう話しをしているのではない!貴様が生きるか死ぬかの話をしているのだ!」
「だからそれはもう結果が出ているんですって」
「馬鹿を言うな!貴様はまだこうして話ができるではないか!諦めるな!」
「ですから、こうやって話しているのはあなたが頭で思い描いている幻影なんですって」
妙に落ち着いた声で、サンゴウは淡々と、先ほどまでの鬼気をいつの間にか消し去って、話続けた。
「もうここへきて何週間になったと思っているんですか。シンさん、しっかりしてくださいよ。俺ぁもこいつも、もうとうの昔に息なんかしちゃいないんだ。それを認めようとしないあんただから、いつまでたってもこんなところにいやがる」
「とっとと、先へ進んでくださいよ。ここまでなかなか楽しかったです。俺は一足先に前のムジナを探しに行って、見つけたらあいつの姉を嫁にして幸せに暮らしますや。このムジナもすみませんが一緒に連れて行きますから」
そう言い終えるか終えないかの間に、シンの手からサンゴウの息遣いが消えていった。驚きを隠せないシンはその隣にいる山犬へと目を凝らすと、確かに息をしてはいない。
「まだわからないんですかい?俺らはもうここにはいません。あんたのせいじゃありませんよ、こりゃしょうがないことなんですから」
「なぜだ、なぜこんなことが」
「あんたがいつまでも現実を受け入れないから、こんな珍しいことにもなったのかもしれませんね。まあ、俺ぁもこんなのははじめてだし、ひょっとしたらみんな死んだとしても誰かの思いが強ければこんなことよくあるのかもしれませんがね。どっちにしたって俺ぁにもこんなのははじめてだ」
「おい!サンゴウ!逝くな、こんなことぐらいで」
「無理を言っちゃいけませんな。人間食わなきゃ死ぬ。それが確かめられたと言うことで俺ぁけっこう満足してるんですがね。それ以外のことはあんたのおかげでよほど沢山、経験してきましたから」
その言葉を最後に、目の前にいるものはかききえていた。こぼれる涙のままに、シンはその場で膝をつき、そして数日前のできごとをありありと思い出していった。
穴を掘った、乾いた大地に。
広く大きな穴だった。
この洞窟からそう遠くない村で、飢饉だと言うからなんとかしようと頑張り、深く広い穴を掘った。
水が出ないかと闇雲に掘り進めるうちに、ひとり、またひとりと、村の人間は手伝いに来なくなった。
それでも掘り進めるうちに、わずかに湿気を帯びた層が出た。
犬のムジナがその部分を嬉しそうに舐めた。
サンゴウがもう少し掘れば何とかなるかもしれませんねと言った。
村の人間がまた手伝いに来るようになった。
そして
水は出ないまま、サンゴウが倒れ
ムジナもまたそれにならうように倒れた。
シンは別の場所に僅かな穴を掘り、ふたりを弔った。
その間に、村には水が出た。
それを見届けてシンはこの洞窟へと訪れ
そして数日間を過ごした。
「サンゴウ・・・すまなんだ」
『何をですかい?謝られるようなことなどなんもありませんぜ』
「嘘をつけ。貴様は本当は取って返して、ムジナの姉と添い遂げたかったのであろうが」
『それは俺ぁの領分ですから、あんたが気にするこっちゃありませんて』
「それでも、すまん」
『へいへい。気のすむように』
そうして暫くの間、シンは壁に背をつけて座り込んでいた。
外はまだ暑さが厳しく、出てゆく気力もわいてこない。
「俺はただの化け物なのかもしれんな。」
そう呟くと、膝を抱える力が抜けてゆくような気がした。
「やり方を考えてもこれでは埒があかん。誰かに学ぶ必要があるのかもしれぬ」
再び力を込めて膝を抱えると、シンは声を殺して泣き出していた。
鳶の鳴き声はこの地には聞こえないでいる。
# by MemenCrital | 2008-03-01 19:00 | 夢語り:運命のロンド
2008年 03月 01日
降る雨に打たれながら
積もる雪に身をさらし
日差しの下でカラカラに乾いて
落ち葉を踏みしめる
そうして
時は流れた
いつしかシンもその借物の肉体を朽ち果てさせ
気がついたときには
森となっていた
多くの命に囲まれて
生まれ、育ち、食べて食べられ
繰り返す命の連鎖を何も感じないままに
何千回かの夜が来た
森となったシンの心にはそれでもまだかつての後悔だけが根強く残っていた
何度となく繰り返される生き死にを繰り返し目の前で見せ付けられても
かつての3体の生命を己の采配から失わせてしまったことに
いや
そうとなっても恨み言ひとつ残さず
目の前から消え去っていったできごとに
囚われていた
やがて森がその命を終えたのち
シンは再び人の身となる決心をした
いくら考えても何を見て学ぼうとも
人となる以外に今己におきているどうしようもない心の迷いは
晴れないと気がついたからだ
そうして彼は一組の夫婦の元へと
その求める要請に割り込んで一個の受精卵へともぐりこんでゆく
女は夫を求めながら、その内に生まれくる魂を欲していた
男は妻をいだきながら、彼女と共に守り息づく分身を欲していた
そこへ割り込んだシンはそれではすまぬと思ったのか
本来くるはずの魂へとはたらきかけて
そうして人の子として
双子のひとりとして産声をあげた
時はかつてからどれほどの螺旋を描いたのだろうか
変わりなく空には鳶がゆったりと舞い雲が流れている
人の世は荒れ果てて、誰かしら末世だのとのたまい念仏が巷に流れるころ
ひとつの肉体を分けあった二つの魂が
互いの運命を自らの思うままに描き線をひいてゆく
穏やかに人となりて、太古の意思から生まれた兄と
求めに導かれ精を受けた弟の
ふたつの軌跡
季節の移ろいのように確かでしかしあやふやな人としての学びがはじまる
# by MemenCrital | 2008-03-01 18:00 | 夢語り:運命のロンド
2008年 03月 01日
# by MemenCrital | 2008-03-01 01:19 | コメント・トラバ | Trackback | Comments(8)
2008年 01月 23日
# by MemenCrital | 2008-01-23 13:31 | 短歌:ごしちごしちしち | Trackback | Comments(0)
2008年 01月 12日
# by MemenCrital | 2008-01-12 03:21 | 短歌:ごしちごしちしち | Trackback | Comments(0)
2008年 01月 06日
# by MemenCrital | 2008-01-06 17:46 | 短歌:ごしちごしちしち | Trackback | Comments(0)
2008年 01月 02日
# by MemenCrital | 2008-01-02 22:25 | 短歌:ごしちごしちしち | Trackback | Comments(2)
2008年 01月 01日


# by MemenCrital | 2008-01-01 09:35 | 小語り:短編・掌編 | Trackback | Comments(2)
2007年 12月 24日
年末の街角にひとりのギター弾きがいました。
名前はセルシュリマといいます。
都会へ出てきて八年間
ずっと街角でギターを弾いていました。
セルシュリマは目が少ししか見えないため
楽譜も読めず
いつも家に帰るとつけっぱなしの
ラジオから流れる音楽を聴きながら
ギターを練習していました。
セルシュリマの生活の糧は
棲家から程近いコンビニエンスストア
そう
ここは日本の都会の片隅なのです
セルシュリマの生まれは遠く北欧で
10年前に父に連れられてこの国へとやってきたのでした
その時彼はまだ5歳
父と離婚した母から贈られた
一本のギターを大事そうに抱えて
父に手を引かれ
遠いこの地へとやってきたのです。
この国に来て2年が経ち
父は新しい母だといって
見知らぬ女性を連れてきました
セルシュリマはその人と会話ができず
言葉が通じなかったので
彼は日本語になじめなかったので
仲良くなれませんでした
そうして2年が過ぎた頃
彼は家を出て
一人暮らしをせざるをえなくなったのです
原因はほんの些細なことでした
日本の学校で義務教育を終えた後
家でラジオを聞きながら
遠く故郷を思い出すような番組ばかりを聞きながら
セルシュリマが日々を送ることに
父が心配をしはじめて
その原因は継母の一言で
「あなたはもう大人なのだから一人で生活できなければ」
そう言われて
セルシュリマは家を出ることになりました。
とりあえず住むところは
父が用意をしてくれました
古い木造のアパートですが
お気に入りのラジオと
ギターを手に
彼は家を出て新しい棲家へと移り住みました
「これからどうしよう?」
彼は一生懸命に考えて
ギターを弾きながら暮らしていけたら
そう思って気楽に
実は継母といても気の休まる事がなかったので
新しい棲家で日がな一日
ギターを弾いていました
アコースティックのナイロン弦から
優しい音色がアパートに響き渡り
時々大家さんから注意はされるものの
特に困った事もなく
父からの仕送りで一人部屋でギターを弾いて過ごしていたのです
それだけで懐かしき故郷を思い出し
母の面影を思い出し
セルシュリマは一人、幸せでいました
そんな生活が5年も過ぎた頃
父と継母が仲違いをしたと
父から連絡がありました
そして
その日から
セルシュリマは仕送りがなくなり
父は一人故郷の地へと帰り
彼はそれについてゆく事を断った為
これまでと違う生活へと移り変わってゆく事になったのです
そうしてセルシュリマはつたない日本語で
アルバイトの面接を受け
アパートの家賃と
日々の食事を得るために
働くようになりました
セルシュリマが25歳を迎える春先
ふと耳にした街角で立って歌う人の歌声に
自分も同じ事をしてみようと
そう思いついて
彼もギターを抱えて
駅前のロータリーまで出てゆき
歌を歌い続けたのです
やがて道行く人が彼の歌に足を止めるようになって
そしてある日
彼に恋する女性が現れ
その日からセルシュリマは
彼女に手を引かれながら街角へと立ち
歌い終えると
また彼女に手を引かれ
棲家であるアパートへと戻っていったのでした
・・・つづく
# by MemenCrital | 2007-12-24 23:59 | 童語り:みんなのどうわ | Trackback
2007年 12月 24日
# by MemenCrital | 2007-12-24 23:58 | 童語り:みんなのどうわ | Trackback
2007年 12月 24日
# by MemenCrital | 2007-12-24 23:57 | 童語り:みんなのどうわ | Trackback
2007年 12月 24日
# by MemenCrital | 2007-12-24 05:25 | 童語り:みんなのどうわ | Trackback
2007年 11月 25日
# by MemenCrital | 2007-11-25 00:23 | 小語り:短編・掌編 | Trackback | Comments(0)
2007年 10月 27日
元出し: 2006-08-12 09:42 連鎖の切れた空間に浮遊す... ダーサ
# by MemenCrital | 2007-10-27 05:02 | 小語り:短編・掌編 | Trackback | Comments(0)
2007年 08月 19日
モモ (岩波少年文庫(127))# by MemenCrital | 2007-08-19 23:49 | 童語り:みんなのどうわ | Trackback(1)
2007年 08月 10日
海は つながっている
空も つながっている
言葉が つないでいる
心を
つないでいる
# by MemenCrital | 2007-08-10 03:38 | 夢語り:きみと逢うマチ | Trackback(1)
2007年 08月 05日
# by MemenCrital | 2007-08-05 23:30 | 夢語り:きみと逢うマチ | Trackback
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