海と大地と空の虹 - 「月影に愛を」制作開始前 -

三浦半島のある地域に米軍の居住地跡があり、ロケハンと称して三浦半島を遊び歩いていた大地から、海と空宛てに携帯のメールが届いたのは、秋も近い夏の終わりの頃だった。

夏の間千葉の民宿へ出稼ぎに行っていた空は、そのメールを読んで暫くほっといた。契約が終わって下宿のツケを払うまではと意気込んでいたからだが、三日目には直接電話がかかってきた。

「おい空!何してんだ?」

大地がいつもの調子で話してくることに安堵感を覚えながら、空は正直に話す。

「下宿のツケと暫くの間そっちに集中できるようにって稼ぎに来たら、えらい見込まれちまってさ。」

「なんだ?帰ってこれねえのか?どこだそこは」

「千葉の民宿。もう夏も過ぎて客もあんまり来ないけど、たまにくる常連のサーファーとかの相手をしてる~。」

「いつ頃帰ってくる予定だ?」

大地は相変らずストレートだなと思いながら、空は答える。

「一応あさっての日曜日で終わりの約束してある。だから日曜には東京へ戻るよ。」

「そっか、じゃあ日曜日にうちへ来てくれな。すぐに本を書いて欲しいんだ。」

「あいよ~。一回下宿に戻ったらそっちへ向かうよ。」

「おう、何時でもいいからちゃんと来いよ。海も呼んどくから。」

「おっけー。」

と電話を切ってから、空はあることに気付いた。そしてそのまま大地に電話をかけ直したが、話中でなかなか繋がらない。しかたなく今度は海へと電話をかけてみることにした。すると海は驚いたように電話に出て言った。

「空!今どこにいるのさ。大地があんたどこにいるのかって、三日前から私んとこにメールと電話でうるさくて。私はあんたのマネージャなの?」

「いや、すまねえ海。大地はほら、イライラすると直接言ってこないで八つ当たりするタイプだからさ。」

「で、私に当たってたってことね。それならそれでいいわ。で、あんた今どこにいるの?」

そうして大地に話した内容を同じように海に伝え、電話を切ろうとした矢先に海が聞いてきた。

「日曜日の何時にそっちを出るのさ?」

「あー、そうだった。それで大地に連絡しようとしてたんだけど、あいつずっと話中でよ。」

「えー。まあ、お父さんの会社手伝ってんだから繋がりにくいのはいつものことでしょうよ。」

「だよな。」

「メールしとけばいいでしょう。」

「あ!そっか。そうすっか。」

「そうそう。あ、じゃあ私まだ仕事中だから、またね」

と言って海は電話を切った後、肝心の事を聞き忘れたことに気がついた。しかし、長い間席を離れるわけにもいかずに仕事へと戻り、そうして忙しい中でその事を思い出したのは家へと帰りついた後だった。

「そういえば空、日曜日の何時に帰ってくるんだっけ?」

化粧を落としながらそんなことをつぶやいて、顔を洗った後で携帯を手にして空ヘ電話する海。しかし何度コールしても空は電話に出なかった。

「民宿とか言ってたから、今頃忙しいのかな?」

時刻は19時を少し回っていた。

その後大地へもメールを送ってみたが、返信はなかなかこない。ただでさえ電話応対の業務でストレス漬けの海は、そこであっさりと諦めた。

「いいや、日曜日まで待ってればわかるよ。」

そうつぶやいて、浴槽へお湯をために歩いていった。

その頃大地が、昼間の仕事も終わりようやく今回の作品のアイデアを書き並べ、職場兼自宅でくつろぎながらふと思い出したことがある。

「そういや空、日曜日の何時ごろになるんだ?」

携帯を見ると海から同じ内容のメールが届いている事に気がついた。早速空に電話してみたが、やはりコールすれども出る気配が無い。

「しょうがねえ。また明日にすっか。」

そう言ってソファーに横になると、そのままスウスウと眠ってしまった。

肝心の空はと言うと、ちょうどその頃、民宿の飲んだくれた客に絡まれて四苦八苦をしていた。

「お兄さん、一緒に遊ぼうよ。」

「飲もうよ、ねえ。」

ベロベロに酔っ払ったオカマサーファーの二人に翻弄されて、愛想笑いも底をつき、切れそうになるのを我慢しながら、すいませんを繰り返していた。

民宿の窓の外には月が出ている。波打つ音が静かに、ザーっと寄せては引き、寄せては引き、その日の夜は更けていった。

海の寝息はスヤスヤと、また演じられる機会が来たことを喜びながら。
大地の寝息はスウスウと、あふれる夢を整理しながら。
空の寝息はグーガーと、疲れた体を癒すように。

まん丸な月が西の地平に沈む頃には、三人とも皆、また始まる映画作りに、夢の中で期待をふくらませてゆく。
そんな夜だった。
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by MemenCrital | 2007-08-05 22:00 | 夢語り:きみと逢うマチ | Trackback

泣く、笑う、怒る、楽しむ。そんなことが自然にできる、そんな世の中であればいい。


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